※この記事は2019年11年時点の情報です。共通テスト導入前の混乱の備忘録として残してあるものですのでご了承ください。

英語民間試験導入は延期へ

annekarakash / Pixabay

かねてより問題点が指摘されていた大学入試改革ですが、2019年11月1日、2021年年度入試から始まる予定だった英語民間試験を使った「大学入試英語成績提供システム」の導入が延期されるという発表がありました。萩生田文科大臣の会見によると令和6年度まで延期ということでしたが、「大学入学共通テスト」に関しては他教科の記述式問題についてもアルバイトが採点を任せるなど問題は山積で、今後の見通しは不透明です。

英語民間試験導入については、ギリギリの時期になっても全容がわからず受験生への告知ができていない状態でした。会場の確保もあやしく問題だらけだったので、来年度の導入を断念するのは当然でしょう。しかし受験生のことを思うと、なぜもっと早く判断できなかったのかと思います。

7月にTOEICが「責任を持って対応を進めることが困難」として撤退した時点で、既に赤信号は灯っていました。しかし実際の判断はその後、萩生田文科相のいわゆる「身の丈」発言のすったもんだを経てからということに。

この混乱には驚きましたが、とりあえず変更点を整理します。

2021年度大学入試に関する変更点

現在のマークシート方式のセンター試験は、2020年の実施(令和1年高3生)で最後となり、2021年度の入試(令和1年高2生)からは「大学入学共通テスト」が導入される予定です。

当初の予定では、2021年度の大学入学共通テストでは次のような変更がある予定でした。

●数学・国語
数学と国語に記述式問題が3問ずつ出題
●英語
英語ではリーディングとリスニングが100点ずつ配点。また英語民間試験、ケンブリッジ英語検定、実用英語技能検定(英検)、GTEC、IELTS、TEAP、TEAP CBT、TOEFL iBT、を利用した「大学入試英語成績提供システム」を導入し大学入試に活用。(利用の有無や方法は大学によって異なる)

しかし今回「大学入試英語成績提供システム」の導入は見送られ、それに必要だった「共通ID発行申し込み」は中止になりました。

ただし英語の配点、リーディングとリスニングが100点ずつというのはそのままで行くそうです。つまり「読む」「聞く」が100点ずつで、民間テスト導入で補う予定だった「書く」「話す」はなしということです。

2020年で最後となるセンター試験には、「読む」「聞く」以外の「書く」「話す」を間接的に測る出題がありましたがそれがなくなり、現行よりリスニングの配点割合が大きいテストとなるようです。

廃止されるのは、複数の単語を正しく並び替えることを通じて「書く」力を問う語句整序問題と、複数の単語から同じ発音を含む単語を選んだり、単語の中で強調して発音する部分を選んだりして「話す」力を測る問題。民間試験導入見送りが決まる前の6月にセンターが公表した「共通テスト問題作成方針」で、廃止が明記されていた。

また、共通テストの英語の配点もリーディング100点、リスニング100点の計200点のまま維持される見通し。センター試験の筆記200点、リスニング50点の計250点と比べ、リスニング重視となっている。
福井新聞:大学共通テスト英語の出題方針判明 より引用

なお数学と国語に記述式問題についても多くの批判がありますが、今の所導入は取り下げられていません。つまり2021年度の大学入学共通テストは、あくまで現時点(R1.11月)ですが、以下のようになる予定です。

●数学・国語
数学と国語に記述式問題が3問ずつ出題
●英語
英語ではリーディング100点、リスニングが100点。計200点。

国語の記述式問題は、小問3つで構成する大問1つが出題。評価は小問3つの評価を組み合わせてA~Eの5段階で示されます。この評価はマーク式部分の得点とは別になっており、大学によっては合否判定の資料から除外することもできます。

これに対し数学の記述式問題は記述部分の点数も合計点に入れて算出されるので、記述部分だけの点数を受験生が知ることはできません。どのような採点が行われたかは点数開示後も分からない状態です。

なお11月13日の報道によると、文部科学省は国公立大に対し二段階選抜で国語の記述式問題の成績を使わないよう要請を検討しているそうです。

二段階選抜とはいわゆる足切りのことで、全ての大学が行うわけではありませんが、学校により倍率があらかじめ決めた基準を上回った場合に実施されます。つまり人気校などで受験生が殺到した場合に1次試験の段階で落とす仕組みです。

志望校が二段階選抜を行う場合、受験生はセンター試験(2020年まで)、2021年度以降は大学入学共通テストを受験直後に自己採点し、その点数を元に足切りラインを突破したかを判断しなくてはなりません。そして二次試験の出願をどこにするか最終決定します。

今回の文科省の要請は、二段階選抜の判断に自己採点とのズレが起こりやすい国語の記述の問題を入れると、混乱が大きくなるとの判断のようです。しかし使わないことを要請する問題を導入する意味とは一体何なのでしょう?

2025年度大学入試に関する影響

大きな影響を受ける令和元年の中学1年生

当初の予定では、2021年度の入試(令和1年高2生)から始まる大学入学共通テストは部分的な変更にすぎず、本格的な変更は令和元年の中学1年生が大学入試を迎える2025年のからということでした。この年の大学入学共通テストの変更内容は以下のように予定されていました。

●英語は英語民間試験に完全移行
●国語の記述式問題の解答の文字数を増やす
●社会科、理科分野等にも記述式問題
●大学入学共通テストを複数回実施
●「高校生のための学びの基礎診断」という名の民間教育業者によるテストの本格実施

しかし今回「大学入試英語成績提供システム」が見送られ、その他の問題についての意見交換も活発化していることで、これらの予定もどうなるか分からなくなってきました。

高校生のための学びの基礎診断とは?

文部科学省によると

「高校生のための学びの基礎診断」は、義務教育段階の学習内容を含めた高校生に求められる基礎学力の確実な習得とそれによる高校生の学習意欲の喚起を図るため、高等学校段階における生徒の基礎学力の定着度合いを測定する民間の試験等を文部科学省が一定の要件に適合するものとして認定する仕組みです。
引用:文部科学省 高校生のための学びの基礎診断

ということですが、要は基礎力を測るために定期的にベネッセなどの民間の試験や検定を受ける(費用は受験者負担)というもので、本格実施後はそれが正式な成績として評定に影響することが予定されているようです。

数検などの各種検定も「高校生のための学びの基礎診断」の認定ツールとなっているので、本格実施後の高校生は日常からこれらの各種民間試験の対策に追われ、授業もその対策を中心としたものになるのではという懸念があります。

また受験生に費用負担を求めることから、英語民間試験と同じように経済的な問題や受験機会の格差など公平性に問題があり、第二の身の丈発言があってもおかしくないような制度です。こちらも今後どうなるのか不透明な部分が大きいですが、利権と様々な問題を含んでいると思いますので、本格導入までに当事者を交えた議論が深まることが必須です。

記述式問題も問題山積

大学共通テストの記述式問題導入については、主に次の問題が指摘されています。
一つは、誰が採点をするのかという問題。
もう一つは、自己採点が出来なくなるという問題です。

アルバイトが記述問題を採点?

50万人もの大学受験生が受ける「大学入学共通テスト」は、大量の採点者を確保しなくてはなりません。大学教員が採点する大学個別試験とは異なり、アルバイトを動員して採点しなくてはいけなくなると言われています。

採点の質があやふやなテストで合格、不合格が決まるなど受験生からしたらたまったものではありません。回答がぶれないように(採点しやすいように)問題を条件でガチガチに固めるという方法もあるようですが、まさに本末転倒。そんなやり方で本当の学力が測れるのでしょうか?

漏洩の懸念も

採点はベネッセの関連会社「学力評価研究機構」に委託されますが、この業者には試験の実施前に問題と正答例が知らされることが判明しました。こうしなければ短期間で大量の採点を行うことができないということですが、このことは多くの問題を含んでいます。

これだけバイトテロが社会問題化しているにも関わらずこの体制で漏洩は起きないと考えているのなら、危機管理が足りないと思われるのは当然です。大量のアルバイト採点者に、身内や知人に受験生がいる人がいないと証明させるのは現実的に不可能だと思われますし、そのバイトに従事してしていることが分かればどんな話が持ちかけられるか分かりません。これは、性善説を元にしてはいけない案件です。

また、ベネッセは営利を目的として受験生に模擬テストや教材を提供する会社です。その一民間会社に事前に問題を知らせることがフェアだとは思えません。今回の大学入試改革は、知れば知るほどベネッセにとって美味しすぎますね。

自己採点が出来ない

現行の大学受験では、センター試験の成績を受験生が知ることは必須です。センターの点数によって、国公立の2次試験や滑り止めの出願先を決めるからです。しかしセンター試験の成績が開示されるのは入試が終わった4月中旬。何もかも終わったこの時期の開示は、志願先の参考にするには遅すぎます。

マークシート方式のセンターなら、受験生は自己採点が可能でした。ですから自己採点したセンター試験の成績を元に、最終の志願先を考えることができました。しかし大学入学共通テストで記述式問題を導入した場合、自己採点で果たして受験生は正確な点数がわかるでしょうか?どう考えても無理でしょう。

どうしても記述を導入するなら点数開示を直後に行うか、無理ならマークシートに戻すかしかないように思えます。

そもそも記述式は必要?

そもそもセンターや共通テストなどの一次試験の意味とは受験生の基礎力を測ることだと思いますので、無理を通して民間を参入させてまで記述式にこだわる必要はないという意見もあります。

また「大学入学共通テスト」に記述式問題の導入が必要とされた根拠となったデータがおかしいのではないか、という話も出てきています。

これまで導入の根拠となってきたのは「国立大学の2次試験において、国語、小論文、総合問題のいずれも課さない学部の募集人員は、全体の61・6%」という文部科学省のデータだ。東北大に先んじて16年8月に発表された。これにより「国立大の記述式は約4割」というイメージが流布。推進派のなかには「国立大学の2次試験では4割しか記述式問題を出しておらず、6割の受験生が1文字も書かないで合格している」と発言する人もいた。

しかし実際は、

国立82大学のうち81大学が記述式を実施。一般入試募集人員の約88%が記述式問題を課されている──。東北大学の調査だ。

AERAdot.:共通テストに「記述式」は必要? 国立大学の9割が実施より引用

国公立大の個別試験では約9割が記述式問題となっており、受験生は相当量の記述を求められています。このデータの差は東北大が全教科を調査したのに対し、文科省は国語に限定しているということが原因となっているようですが、結論ありきのデータの出し方なのでは?と感じてしまいます。

受験生の権利はどこいった!?

大学受験というのは、若い受験生にとってこれからの人生を左右する大きな分岐点です。そして受験生には親の経済力や住んでいるところに関わらず、公平な機会が与えられることは彼らの権利です。それを第一に考えなければいけないはずの教育行政が、実際はそうなっておらず肝心の受験生が置き去りになっているところに歯痒さを感じます。

令和元年の高校2年生は、受験の1年少し前というこの時点でこの騒ぎという信じられない事態に巻き込まれ、まるで自分たちが実験台にされているように感じているでしょう。

令和元年の高校3年生は、センター試験最後の年、ちょうど制度の切り替えでの受験です。決して浪人できないというプレッシャーの中で挑戦がしにくく、手堅い志望校決定を強いられたのではないでしょうか。

令和元年の中学1年生は、高校、大学入試両方で大きな変更の矢面に立たされます。その間の学年も少しずつ調整された入試制度の変更点に翻弄されながらの受験になっていくのかもしれません。

子供達の意見に聞く耳を持たない今までのやり方はもう限界です。民間の利権は関係なく、受験生ファーストで一から考えていく必要があるのではないでしょうか。