大学を退学を検討が2割
学生団体「高等教育無償化プロジェクトFREE」が2020年4月29日に発表した調査結果によると、退学を考えているとこと答えた学生が20.3%。
5人に1人が今回の事態により困窮し、退学を考えるまで追い込まれていることが分かりました。
うちの子どももそうなので分かりますが、今の大学生は本当に苦境に立たされています。ただでさえ高額な学費。一人暮らしならそれに加えて家賃や生活費もかかります。それらの費用を奨学金やアルバイトで賄いながら、どうにか学生生活を続けていた学生がなんと多いことか。
アルバイトは出来なくなり、保護者の収入も激減したところで、大学からの学費の請求書は通常通りに家に届きます。オンライン授業が始まるからと、パソコンやネット環境を急遽整える必要に迫られても、パソコンは品薄で、大学推奨のものさえ納期の延期や販売中止が相次いでいます。
一部の大学では、学生へネット環境整備に数万円の支援金を出すところあると報道されていますが、あくまでもほんの一部。ほとんどの大学では特に支援もなく、通常通りの学費の振り込みを求めています。
請求書だけは待ってくれず
学費の問題だけではありません。本来なら就職活動を行う時期の学生の不安やストレスは、どれほどでしょう。また入試の時期からずっと翻弄されてきた新入生も、苦境に立たされています。新学期から一人暮らしを始める新入生は、3月までに学生会館やアパートは既に契約しています。
その後ずるずると大学開始の時期が延期行く中で、住み始めるか、住まなくても家賃を払い続けるか、解約するかの選択を迫られています。
今春、北海道の大学に合格した三重県四日市市の男子学生(18)は、大学の「来道自粛」要請などで、地元を離れられないでいるが、契約した学生会館からは、利用していない食費の支払いまで求められた。男性は「助けてほしいのに、逆に費用がかさむ」と話す。
入試に合格後、男子学生は大学生協のサイトを通じて、食事付きの学生会館に申し込み、3月上旬、仲介の不動産会社に、入館金と保証金、4月分の家賃など17万円余りを支払った。入学金も納め、布団などの荷物も送った。あとは新生活を待つだけだった。だが、大学は入学式の中止に続き、授業開始を5月11日に遅らせると決定。道外の学生には、来道の自粛も求めた。
男子学生には肺気胸の持病がある。新型ウイルスに感染すれば重篤化の恐れもある。大学はオンライン授業をする方針で、当面の北海道行きは断念した。
対面授業の再開に備え、学生会館の家賃と管理費は払い続けるつもりだった。しかし、利用していないのに、毎月計3万円以上が掛かる食費や水道料などの支払いには疑問がわいた。不動産会社に減免を求めたが、「契約上できない」と繰り返すばかりだった。
引用元: 朝日新聞デジタル未利用の食費まで請求 新大学生、お金払って住居手放す
結局この学生は3ヶ月分の家賃と管理費を違約金として支払い、契約解除したそうです。同様のケースはまだあるようで、理不尽な思いを抱えている学生は少なくありません。
そんな中声を上げ始める学生たち
今までも、学費について思うところのあった学生や保護者はいたと思います。しかし、学費について物申すことは一種のタブーでした。
特に大学や私立の学校は、学費の支払いができないということは、退学に直結します。学校から支払いを求められた授業料や諸経費は、学校に成績や在籍資格を握られている以上、金額や納入方法に違和感を感じても親や学生は支払うしかないのです。
それにもかかわらず、今、大学生が学費について減額や再考を求める声を上げ始めています。それはなぜなのか。本当に困っているからに他なりません。
バイトもできず、そして今は帰省することもできません。その一方、家賃はどんな状態でも発生し続けます。そして大学内に入れない状態でも、授業料や施設費は通常通り請求されます。
そんな状況下で、学費の減額を主張したくなるのは仕方がないことではないでしょうか。
ここで声を上げる学生の感性は真っ当です。どんどん声を上げればいいとも思います。
大学と政府に求める対策
大学も簡単に学費を減額できない事情があるのでしょう。しかし、学生だけに負担を強いる今の状況は、搾取されていると感じさせ、不公平感を煽るだけです。
大学が無理なら国が早急に対策を取らないと、これをきっかけに大きな学生運動のうねりが起きそうです。そのくらい逼迫した状況だということを、大学や国に理解してほしいと思います。
今大学に求めたいのは、前期の学費の納入期限の延期です。既に延期を決めている大学もありますが、そうでない大学には早急に納入期限を数ヶ月延期していただきたいと思います。
そしてその期間を利用して、国には学生に対する援助を早急に取りまとめて実施していただきたいと望みます。
現在、国が学生への支援として具体的に提示しているのは、実質高等教育の修学支援新制度だけです。確かにこの制度には、授業料の減免や給付型奨学金があり、家計急変でも申請することが出来ますが、その対象となるのは非常に狭い収入要件を満たした世帯のみ。
要件を満たせない中間所得層には、借金である貸与型奨学金しか選択肢がありません。
この制度を支援の中核とするなら、事態が収束するまで(出来れば今後ずっとがいいのですが…)授業料減免や給付型奨学金の対象要件を緩和し、授業料の減免を中間所得層まで実施するなど、多くの学生に援助が行き届く方法を考えていただければと思います。
そんな中、公明党が文部科学相と会談し、経済的に困窮する大学生等に、1人10万円の現金給付を求める要請文を手渡したという報道がありました。
公明党の斉藤鉄夫幹事長は8日、文部科学省で萩生田光一文科相と会談し、新型コロナウイルス感染拡大で経済的に困窮する大学生と大学院生計約50万人に、1人10万円の現金給付を求める要請文を手渡した。斉藤氏によると、萩生田氏は「思いは同じだ。早急に対応したい」と述べた。
要請文は、感染拡大の影響でアルバイトの機会が失われるなどして、学業を続けることが難しくなっている学生がいると指摘。住民税非課税世帯約10万人とそれに準ずる世帯の約10万人、中間所得層で学業や生活のためアルバイトが必要な約24万人らを合わせた約50万人に、1人10万円の現金給付を求めている。
引用元:共同通信社 困窮大学生ら50万人に10万円
この案が実現したなら、かなり多くの学生に支援が届きそうです。今の時期は必要な人に確実に届くような対策が求められますので、ぜひ早急に取りまとめ、実現をお願いいたします。そして学費の減額に対しても国の支援を是非!
5/22追記:学びの継続を目的とした、「学生支援緊急支援金」が創設されました。アルバイト収入が半減した一人暮らしの学生などが対象ですが、それ以外でも対象となる場合もあります。
詳しくはこちらの記事をご覧ください。
https://sapporolifestyle.com/edu/gakuseikyuhukin/
小・中・高校にも考えて欲しい非常時の学費問題
困窮しているのは、大学生だけではありません。小中学生、高校生の子どもを持つ世帯にも収入の減少により困っている人がいます。
私立の学校では、休校中でも授業料だけでなく施設費や設備費などの納入を通常通り求めているところがあり、違和感を感じている保護者も多いようです。
公立の小中学校、高校の就学支援金対象者は、授業料の負担はありませんが給食費や諸経費などはあります。大阪市では、今回の状況を受けて2020年度に限り、大阪市立の小中学校の給食費を徴収しないことを決めたそうです。
一方札幌市では、よりによって今年度から給食費が値上げとなっています。休校中の給食費は返金されますが、一旦全額を徴収して、休校分は6月以降の給食費を減額するというやり方での返金だそうです。
2〜5月まで断続的に休校していますので、それを未来の給食費の減額で返そうとすると、1ヶ月分では収まりません。返金が終わるのは何ヶ月も先ということになります。
「一旦集めて、多く集めすぎたら後で相殺」は、学校の慣例なのでしょうか。十数年子供達を学校に通わせていますが、今までも多く納入しすぎた諸経費があった場合、年度末の忘れた頃に納入金を減額という形で返金されることがありました。
100歩譲って、平時ならそのやり方でもいいと思いますが、今は非常時です。給付金のスピードの必要性がこれだけ巷で言われている時期に、学校だけ今までと同じやり方でいいのでしょうか?
返金完了が何ヶ月も先になっても、相殺して返せばいいというのは、今の状況にはそぐわない考え方だと気づいて欲しいのです。
給食費を例にあげましたが、それだけではありません。徴収時点で中止が決まっている研修旅行の費用。実施時期が休校中のテスト代金。
テストに関しては高校3年生の受験のための模擬試験は別として、1・2年生の今の外部テストについての集金については「授業も受けられないのにテスト!?」と首を傾げたくなります。
今までも「高校生のためのまなびの基礎診断」では通年を通して外部テストを生徒が代金を負担して受験しなければならないことが問題となっていましたが、そもそも現在の授業がほとんど受けられない状況の下で、外部テストだけ行うのは無理があるのではないでしょうか。
学校の納入金は「一旦集めますが使われない分は後で返金します」と集める時に言われますが、いつになるかは明言されません。大抵は長い時間をかけて、未来の諸経費から相殺という形での返金になるようです。
学校ではそのやり方が当たり前なのかもしれませんが、民間でそれが通用するとは思えません。この非常時で困窮している家庭では、マグマのように不満が溜まっていくのではないかと危惧します。
少なくとも、徴収時点で実施されないことが決まっているもののお金は集めないということはできないのでしょうか?集金をしなければ還付の必要もありません。
授業は行われていませんし、遠隔授業も公立ではほとんどありませんが、授業料や高校の就学支援金は学校へ通常通り支払われています。それに加え明らかに利用できない経費まで徴収…となれば、違和感を覚える保護者や学生がいるのは当然ではないでしょうか。
学校が子供達のために現在も努力してくださっていることは理解できるので、正直言いにくいのですが、今まさに困窮している人が大勢いるので敢えて言わせていただきました。申し訳ございません。
入学金の減免制度の後から還付問題
そしてこの「後から返金・還付」の問題は大学の入学金の減免制度にも影を落としています。
2020年から高等教育の修学支援新制度が始まり、その中には大学の入学金の減免制度も含まれています。この制度について調べはじめた時、もしかしたら今回の入学金の減免が、大学入試の経済格差による不公平を是正するカギになるのではと期待しました。
というのも、入学金は大学の合格発表の直後に支払わなければならないことがほとんどで、経済的に恵まれない受験生は、事実上第二志望以降の受験に大きな制約を受けている現状があるからです。
第一希望の合格発表前に、滑り止めの私立の入学金を全額支払い入学権利をキープするというやり方は、経済的に恵まれた層にしかできません。
それが出来ない受験生は、ボーダーラインの高い入学金の納付が遅い入試を受けるか、私立の滑り止めは受けないという受験方法を選択するしかありません。そういう層の家庭は浪人もできないことが多いので、第一志望もランクを落として安全志向となりがちです。
経済的事情に左右されない受験の機会均等を目指すなら、減免対象者は減免された金額のみを支払うという環境を作る必要があります。
文部科学省の修学支援新制度のQ&Aでは、早い段階から「制度の趣旨を踏まえて減免対象となる可能性のある学生には納付時期を猶予するなどの配慮が望ましい」との考えを示していたので、新しい制度によりその環境が整備されるのではないかと期待しました。
ところが実際にどうなったかというと、国公立も私立も結局、入学金は一旦全額納めてから、減免対象者には入学後に還付。いつ還付されるかは大学の手続き次第で事前に明示されず、入学しない場合は返金なし、というやり方です。もしかしたら、この制度により受験機会の経済格差が是正されるのではと思ったのですが、残念な結果となりました。
学校や大学の常識かもしれない「後から還付」ですが、この緊急事態を契機に考え直していただけたら、学生や保護者の負担もかなり減るのではないかと思うのですが、いかがでしょうか?
今回の緊急事態を見ても、あまりにも色々な面で学生に対するしわ寄せが大きいと感じます。
そもそも入学金の減額や免除が決定している学生に対して、全額の納付を求めるやり方は正しいのでしょうか?
確かに入学金の入学権利金としての性質を認めるという裁判結果はありますが、それは新制度の始まる前の話です。それが当たり前と思い込むのではなく、今回の非常事態が、大学生の声に耳を傾け、どうすれば良いのかゼロから考えてみる契機となることを望みます。