2019年夏の高校野球、南北海道大会決勝では公立の札幌国際情報高校と私立の北照高校の対決となりました。札幌国際情報が勝てば19年ぶりの公立校の甲子園出場となったこの試合の結果と、南北海道の高校野球の公立vs私立の現状について考察します。

2019南北海道大会決勝の結果は


Cindy JonesによるPixabayからの画像

2019年7月21日に行われた南北海道大会決勝戦北照vs札幌国際情報のこの試合は、公立の札幌国際情報が、強豪校北照を相手に、公立高校として19年ぶりの甲子園出場をかけて臨みました。

どちらも一歩も引かぬ好試合。初回立ち上がりを攻めた北照がいきなり3点を奪ったものの、7回裏に国際情報が1点を返し、さらに9回土壇場で2点を入れ同点に追いつきます。あわやサヨナラかというシーンもありましたが、そのまま延長戦に突入。

両エースの好投と粘り強い好守で両チーム一歩も譲りませんでしたが、延長の末14回に、北照が1点を入れ勝利をもぎ取ります。惜しくも公立札幌国際情報の甲子園出場はあと一歩のところで及びませんでした。

しかし強豪北照を相手に延長14回の熱戦。前日の東海大札幌との試合や、その前の北海との点の取り合いの末の勝利を見ても、札幌国際情報と私立と実力差は感じられません。

北海道に限らず、高校野球で公立高校が勝ち進む難しさが言われて久しいですが、甲子園も決して夢ではないことを公立の野球部員に見せつけてくれた本当に紙一重の結果だったと思います。

札幌国際情報の監督は、元日本ハムの有倉雅史監督。監督と選手たちは公立高校でも私立に勝てるということを見せてくれました。是非これからに繋げて行って欲しいです。

また北照は昨年の覇者に相応しい素晴らしい戦いでした。連覇ができる学校の強さというのはやはり本物だということでしょう。

公立高校の戦績

あと一歩のところで19年ぶりの公立高校の南北海道大会の優勝はなりませんでしたが、前回公立高校で甲子園に行った高校はどこだったのでしょう。それは2000年、北海道屈指の進学校、あの札幌南の快挙でした。

甲子園での初戦は強豪中の強豪、PL学園。残念ながら甲子園で1勝することはできませんでしたが、札幌の公立進学校も甲子園へ行けるという夢を与えてくれた出来事でした。

それから19年。残念ながら公立高校の南北海道大会の優勝はあと一歩のところで強豪私立に阻まれています。しかし今回の札幌国際情報の活躍も、公立高校野球部にとって希望となったのではないでしょうか。

なぜ私立の壁はできるか

それでもやはり、公立高校が強豪私立高校を破って勝ち進むのは難しいと言わざるを得ません。なぜ私立の壁はできるのか。それには公立高校側の理由と、私立高校側の理由が存在します。

公立高校側の理由

公立高校の入試システム

北海道の公立高校は野球の実績をもとに生徒を取ることができません。有望な選手が入学を希望して、監督もその選手が欲しいと思っても、入学を決定づけるのは入試の点数と内申書です。野球に限らず部活動推薦はありませんし、中学での野球の実績は内申書には記載されても、入試で入学を決定づける要素としては微々たるものでしょう。

設備の差

野球専用グラウンドがある北海道の公立高校もありますが、雪に覆われる冬に専用のトレーニングができる公立高校は少ないと思います。屋根のある共用部分を他の運動部と分け合うように基礎トレーニングに励む公立高校野球部がほとんどではないでしょうか。

時間の差

当然ですが高校生活は授業時間で勉強する時間がメインで、その終了後や休日が部活動の時間に当てられています。最終学年はその先の進路を見据えなければなりません。

顧問や指導者の異動がある

公立高校の指導者は教員ですので、異動があります。何年かかけて強いチームができていても指導者が突然変わることでそれを維持することが難しいという側面があります。

部活で学校を宣伝する理由がない

北海道は公立高校を志望する生徒が多く、特に部活動で宣伝を頑張らなくても生徒が集まるという事情があります。重視されるのは内申ランクや学力であり、私立のように全国大会進出を学校の宣伝にする必要があまりないのです。

私立高校側の理由

部活で学校を宣伝する理由が大アリ

一部の私立にとって、部活動の全国大会進出などの成績は学校を宣伝してくれるこれ以上ない要素ですから、部活動に対する力の入れようやお金の配分が公立とは全く異なります。全国大会などの実績は即学校の宣伝となります。まさに広告費いらずの広告塔です。

そして実績を見て、憧れる中学生が自然に集まり、ますます強くなっていくという利点もあります。私立にとってその学校を第一志望にしてくれる優秀な生徒は非常に有難い存在です。

一般入試の受検生は実際に入学するかどうか読みにくいですが、単願や専願などの受検生は入学する確率が非常に高いです。部活動の実績は、入学意欲の高い受検生を集めるという意味でも、さらにその競技を強くする意味でもとても大きな意味を持ちます。あの手この手で部活の強化に投資することはそれなりのリターンがあるのです。

私立高校の入試システム

私立高校には強化したい部活動で活躍が期待される生徒を集める「入試のシステム」があります。推薦入学で有利にしたり、有望な生徒に奨学金を付与したり、入学金を全額または半額免除したりと、その学校によってそれぞれですが、欲しい生徒をダイレクトに集める手段があります。また寮を用意し、遠隔地から広く生徒を集める高校もあります。

設備や環境も段違い

部活動の強化が即学校の利益に繋がるため、一部の私立は設備も公立とは段違いであることが多いです。北海道は雪で閉ざされた冬のトレーニングが難しいという特徴があります。強化したい運動部に対して屋内のトレーニングルームや練習場など、雨の日や冬もしっかり練習できる設備を用意している私立高校もあります。廊下などで基礎練を繰り返す公立高校とは環境の差があります。

また進学を重視する生徒と部活動に時間を割きたい生徒のコースを分けて、部活にたっぷり取り組めるよう授業時間に差をつけている私立もあります。

私立の特色のある強化・育成方法

部活動の実績を残している私立高校の中には、独自のユニークな強化・育成のノウハウを持っているところがあります。例えば…

北照高校

北照高校は普通コースとスポーツコースを設置した高校で、スポーツコースは野球、スキー、サッカーがあります。野球部などの部活と専攻コースが一体になっているのが特徴です。スポーツコースの生徒は午前中は授業に取り組み、午後は体育の授業と部活動を直結して毎日13:45から練習を始めます。朝練もあり、専攻競技の強化にたっぷり時間を使うことができます。

参照:北照高校公式サイト

札幌大谷中学・高校

最近の活躍がめざましい札幌大谷高校野球部。強さの秘密は、大谷中学から高校へと中高6年間でじっくり選手を育成できるという環境にありそうです。大谷の中学3年生の選手は中学の公式戦が終わるとすぐ、9月から高校の練習に参加します。

なお大谷中学の野球部は北海道の中学校では珍しい硬式野球部です。『日本リトルシニア中学硬式野球協会 北海道連盟』に所属し、公立中学校の中体連の大会とは異なるリーグで野球に取り組んでいます。

参照:日刊現代:札幌大谷・船尾監督が明かす「中高一貫」のメリット

札幌大谷中学校公式サイト

東海大札幌高校

東海大札幌高校は、スポーツや吹奏楽などの大会で優れた結果を残しており、部活動が盛んで強い高校というイメージがあります。

大谷高校の強さの秘密が高校入学前の中学にあるとしたら、東海大札幌高校の強さの秘密は高校卒業後にあると言えるのではないでしょうか。こちらの高校では東海大学の付属高校ならではの強みがあります。

希望さえすれば東海大学へほぼ入学が約束され、実際生徒の約半数が卒業後東海大学へ入学しています。また内部進学希望の場合、夏休み前という早い時期に東海大へ進学内定が決まるそうで、その後卒業まで、引退時期や大学受験を気にせずに、心置きなく部活動に打ち込めるという環境があります。

参照:東海大札幌高校公式サイト

私立の壁を破るには

私立の壁は厚い

公立優位と言われる北海道の高校ですが、前述のような理由により、メジャーな部活動の大会成績で私立の壁を打ち破るのは難しいというのが現状のようです。
 
では公立高校は私立の壁を破ることはできないのでしょうか?

いえ、必ずしもそうとは言えないでしょう。2000年の札幌南の甲子園進出もそうですし、今回の札幌国際情報の例を見ても、良い指導者と良いチームに恵まれれば、どちらも同じ高校生ですから、公立が私立を破ることは可能です。

地域で応援する

確かに不利な点は多いですが、公立ならではの強みもあります。例えば吹奏楽部を例にあげると、地域が一体となることでその地区の実力を底上げし、長い時間をかけて応援体制を整えているところがあります。

北斗市の上磯や北見の遠軽などがそうです。地域の小学校やOB・OGが一丸となって町おこし的に部活を盛り上げていくようなことは、北海道の私立には難しいかもしれません。もちろん普通の公立にも難しいことですが…。

入試を使った強化

私立高校なら普通にやっている、入試による部活動の実績の優遇。北海道の公立高校は野球の実績をもとに生徒を取ることができまないと前述しましたが、公立高校は野球などスポーツや文化部の活動の実績で生徒を取ることは禁止されているのでしょうか?

実は全国の公立高校に目を向けて見ると、そんなことは全くありません。さすがに奨学金はありませんが、推薦や自己推薦で中学での部活動実績重視することもありますし、選抜の材料として点数化している高校もあります。

高校自身に高校入試の裁量権を与える

北海道の高校入試における高校の裁量範囲というのは、全国的に見ると最底辺レベルなのです。それぞれの高校のカラーを打ち出すには、その高校が求める生徒像を、入試の選抜方法という形で広く発表するのが必要不可欠のはずなのですが、北海道の公立高校の裁量範囲は本当に狭い!

推薦は事実上中学に丸投げですし、一般入試の裁量範囲の割合はわずか30%。しかもそれを学力重視と内申重視で15%ずつ分け合わなければなりません。しかも今後、裁量問題まで廃止されることが決定しています。ですから生徒は高校のカラーで進路を選ぶのが難しく、主に内申ランクで志望校を選んでいるのが北海道の公立高校入試だと言えるのではないでしょうか。

もっと高校に裁量権を与えて、欲しい生徒をアピールさせてもいいんじゃないかと私は常々考えています。そうすれば選ぶ生徒側も高校のカラーがはっきり見えて、内申ランク偏重の不思議な学校選びから解放されるのではないかと思うのですが、いかがでしょう?

公立は部活動推薦なしというのは限られた地域の常識に過ぎないということが分かれば、北海道の公立高校も変わり、部活動の私立の壁も破られていくかもしれません。