東京都立高校の名門、日比谷高校の2次募集をめぐって、ネット上では様々な意見が紛糾しています。これらの意見は北海道でも決して人ごととは思えない問題を孕んでいます。公立と国立の併願、追加合格、公立合格の辞退について、北海道のケースを交えて見てみます。

日比谷高校の2次募集

ことの起こりは、都立高校の一般入試発表後、名門日比谷高校が定員割れを起こし、2次募集を行うというニュースです。

東京都立日比谷高校(千代田区)の2019年4月入学の一般入試で、二次募集が実施される。毎年、東京大学に現役合格者(18年度は33人)を出す名門校とあって、ネット上では「天下の日比谷高校様が二次募集…?!」「珍しいこともあるな」など驚きの声が相次いでいる。

引用元:J-CASTニュース都立日比谷高校が「二次募集」へ 「珍しいこともあるな」と話題に

定員割れと言っても、一般入試実施前の倍率の発表では、男子2.47 女子2.14という高倍率。(都立高校は男女別定員です。)もちろん人気がない故の定員割れではありません。入試当日の欠席者を引いた実質倍率も1.89倍で、一般入試募集人員254名に対し、若干名をプラスして270名の合格者を出していたのだそうです。

しかし蓋を開けてみれば、入学手続きを行ったのは249名。5名の欠員が出て2次募集という結果となりました。そして2次募集では、5名の募集人員に対して170名の最終応募がありなんと34倍という倍率になっています。

札幌で言えば、札幌南高校で欠員が出て2次募集を行うことになった…というような状況でしょうか。北海道でもそうですが、基本的に公立高校は合格してからの辞退ができないと中学から指導を受けるはずです。第一希望の私立や国立に合格したならば、その後行われる公立は出願していても入試を欠席するように言われるのではないでしょうか。

そちそれが暗黙の了解となっていたのは東京でも同じだったようなのですが、今回の日比谷の2次募集の件で、「公立高校を辞退してもいいの?」という今まで触れることが困難だったパンドラの箱が開いてしまったようなのです。

公立高校は辞退できるの?という論争

このニュースで私を含むかなりの受験生の親が思っただろう。
「え?公立高校って辞退していいの?」
都立を含め、「公立高校は合格したら必ず入学する」ことは長らく「暗黙のルール」「不文律」とされてきた。だがネット上では、「それって明文化されたルールじゃないですよね」「合格した中からどこに行くか決めるのは受験生の権利」と数年前から激しいバトルが繰り広げられている。
受験倍率約2倍の日比谷高校で定員割れが起きるという珍事で、高校入試のパンドラの箱が開いてしまったのではないか。

引用元:BUSINESS INSIDER「公立高は辞退できない」高校受験ルール論争に火をつけた“日比谷の変”【日比谷高校定員割れ】

辞退をしてはいけないということは、入試要項に書いている訳ではありません。しかし長らく不文律のように扱われ、在籍中学の圧もあり、そうせざるを得なかったというのが実情のようです。

上記の記事の中で、私立合格後、中学から都立受験を欠席するように言われた受検生の保護者はこのように語っています。

「私立が第一志望だったけど、都立も受けた上で、結論を出したかった。だけど第一志望の私立に合格後、中学側に『都立は合格したら辞退できないから、入試は欠席してください』と言われ、しぶしぶ承諾しました」

「明文化していないのに、『公立は辞退できない』と暗黙の了解を求める今のシステムは破たんに向かうのではないか。例えば都立も専願と併願に分けて、合格点に差をつけるなど、実態に合わせた公平なルールを整備する時期では」

受検生にも権利はある。しかし…

確かに、高校受検というシステムの中で受検生の意思で決められる部分は多くありません。自治体ごとに決められた公立受検制度に抗うことはできませんし、各高校が決めた選抜のルールに沿って合格できるように努力するしかありません。自分の高校で学んで欲しい受検生を選抜するのは、その高校や高校を設置する自治体の権利だと言われてしまえば、全くその通りです。

しかし受検生にも、数少ないながら権利があるわけです。それは、学びたい高校を選び受検する権利と、併願で合格した中から第1志望の高校を選ぶ権利です。この2つの権利まで取られてしまっては、高校受験はあまりにも受検生側に不利なゲームになってしまいそうです。

しかし、日比谷高校に行きたかったのに今回不合格となった受検生の立場を考えると、そう単純な問題ではありません。辞退者の合格枠が喉から手が出るほど欲しかった受験生からすると、辞退するなら受検するな、入学する意思もない学校の受検を許すなんて、という声が上がるのも当然理解できます。

そんなわけで、ネット上では今、公立高校の辞退の是非を巡って激しい論争が沸き起こっています。長らく真正面から論争できなかった問題が、今回の件で表面化してしまった様相です。

学芸大附属の繰り上げ合格

今回の日比谷高校の定員割れを引き起こした原因として、まことしやかに囁かれているのが、学芸大附属高校の大量の追加合格です。

学芸大附属高校は、国立の単科大学(教育学部)である学芸大学の附属高校です。国立ですので、入学料、授業料も低く抑えられ、しかも教員養成を主とした大学の附属ということで質の高い教育を期待されています。

附属校とは言っても、卒業後必ずしも学芸大に入学するわけではなく、国公立や難関私大などへの高い合格実績もある名門校です。北海道で言えば、北海道教育大学附属の高校がもしあれば(実際には小・中学校のみ)と考えると、想像し易いと思います。

そんな人気の学芸大附属高校ですが、数年前にいじめが報道されたことが原因なのか、はたまた東京都が2017年度から行なっている私立高校の授業料無償化政策の影響があるのか、ここ数年合格者数の調整が不安定な傾向があったそうです。

今回の入試では、事前に自校のサイトで国立のプライドをかけてか「他校の合格等などの理由による辞退は考えておりません」と入学辞退を牽制し、募集人員を大きく上回るような合格者数は出さなかったと言われています。しかし、蓋を開けてみるとかなりの辞退者が出て、それに伴いかなり大量の追加合格を出したそうです。

国立の学芸大附属の一般入試は2019年2月13日。合格発表は17日です。21日までに入学手続きの期間が設けられています。手続き締め切りの時点で、学芸大附属の読みを大きく外すほどの辞退者が出たと考えられます。

そこで2月22日〜2月23日、3月1日〜3月2日の2回にかけて、大量の追加合格の電話連絡が直接保護者宛てにあったようです。日比谷高校など都立高校の入試日は、2月22日。そして3月1日が合格発表です。確かにこれでは入試を欠席辞退することはできません。

実際は他にも原因があったかもしれませんが、学芸大の合格者数の読みの外れが、日比谷高校の定員割れの一因になったという説はかなり説得力があります。

国公立も辞退者を見込む時代に?

結果として、日比谷高校のわずか5名の2次募集に170名もの応募が殺到する事態となってしましました。日比谷の一般入試を受け不合格となった受検生や2次募集を受検するか悩んだ人、また実際に受ける人にとっては、学芸大附属高、日比谷ともに罪作りな合格者数の読みの外れですね。

東京都は2017年度から私立高校の授業料無償化を実施しています。国公立の強みは私立と比較して安く抑えられた授業料や入学料がまず挙げられますが、面倒見が良く進学実績がある私立が公立とさほど変わらない授業料で通えるのであれば、学芸大附属校と言えどもそちらに合格者を取られることもあるということなのでしょうか。

もはや国公立だから「辞退は考えておりません」と、定員通りの合格者しか出さないということは、通用しない時代になったのかもしれません。

この流れを見ていると、今後は「北海道は公立優位だから関係ない」とも言っていられないのではないかと考えます。現在、北海道の公立高校は、辞退はほぼなしという考え方で、募集人員=合格者数としているところがほとんどです。しかし今後状況は変わって行く可能性はあります。

政府は2020年度から、私立高校授業料の実質無償化(年収590万円未満の家庭が対象)を実施する方針です。ひょっとすると北海道でもいつまでも公立高校が優位を保てるとは限らないかもしれませんね。

北海道の国立高専と公立高校の併願の場合

今回は国立の学芸大附属高と、都立の日比谷高校の定員割れが関係するのではと取り沙汰されていますが、両校共に「国立だから、公立だから辞退は考えていない」という方針だったために起こったケースだったとも言えそうです。

実は北海道でも国立と公立の併願ができるケースがあります北海道の道立または市立の公立高校と、国立である高等専門学校(高専)の受検のケースです。北海道の高校を一般入試で併願する場合、公立校、国立高専、私立A日程、私立B日程の最大で4校を併願することができます。

北海道は公立優位なため、併願で私立を受検した場合、公立の合格発表と追加合格の連絡日を待てるように、私立の入学手続き日が設定されています。(例外があったらすみません。)公立高校が第1志望の場合は、私立は併願で出願し、公立が不合格の時のみ第2志望の入学手続きへ進めばいいという流れです。

高専と公立の併願は追加合格を待てない

ただし、国立である高専と、公立高校の場合は微妙です。北海道には苫小牧、函館、旭川、釧路工業専門学校の4つの国立高専があります。この4高専の入試は、公立の入試より早い時期に行われ、推薦が1月中頃、公立と併願できる学力検査による選抜が2月中旬ごろです。

推薦や4高専複数校志望受検など、有利な条件での受検は、早い時期に入学確約書を提出しなければならなりませんが、一般学力選抜の入学手続きは、公立の合格発表を待つことができます。しかし、なぜか函館を除く3つの高専(苫小牧、旭川、釧路)の入学確約書提出は北海道公立高校の合格発表日の午後に設定され、追加合格の連絡を待つことはできません。

上記3高専の併願の志望者の2019年の入学手続き期限は、3月18日(月)15:00となっています。それまでに在籍する中学校を通じて入学確約書を提出しなければならず、公立の追加合格の通知のある3月19日を待つことはできません。

函館高専の入学手続きは3月19日(火)16:00までに設定されていますので、なぜ他の高専もあと1日が待てないのか不思議でならないのですが、ここは国立の矜持なのでしょうか。併願でも合格発表を待ってくれなかった時代もあったようなので、これでも昔よりは併願し易くなったのかもしれません。

もし追加合格の連絡が来ても中学でストップ?

ここで問題があります。国立高専を有利な条件で受けられる推薦や専願、4高専複数校志望受検ではなく、一般学力選抜の併願で受ける受検生は、公立が第1志望の人が多いでしょう。

その人たちが、もし公立の合格発表翌日に公立の追加合格の連絡が来れば「第1志望に行きたい」と考えるのは、自然なことだと思います。ちなみに高専の合格者数は、公立のような募集人員=合格者数ではありません。併願者を見込んで募集人員よりかなり多い人数の合格者を出しています。では、この場合追加合格は受けられるのでしょうか。

答えはおそらくNOです。中学の圧によって追加合格を受けられない可能性が高いです。

追加合格は、学芸大附属校のように保護者に直接連絡が行くならばそこで希望を伝えることができますが、北海道の追加合格は中学校を通じて行われます。つまり追加合格の連絡は中学へ行きます。驚くほど何もかもを中学校が抱え込むのが北海道の高校受検の特徴です。

そして実際、高専(函館を除く)と公立高校の併願では「公立の追加合格を受けることはできない」と予め中学から言い含められるのだそうです。例え公立高校がが第一希望で、強く入学を望んでいてもです。

中学が追加合格を蹴ることは許されるのか

ではもし、高専との併願者に公立の追加合格の連絡が中学に来たら、中学は連絡があったことさえ受験者に伝えず受検者の代わりに断るのでしょうか?それは道義的に許されることなのでしょうか?

それとも第一希望の公立から追加合格の連絡があったことを受検者に電話した上で、合格を辞退するように強要するのでしょうか?中学にそこまでの介入は許されるのでしょうか?

どういう運用がなされているのかは分かりません。ただ5年制の高専と3年制の公立高校では、その先の進路にも大きな違いがあります。受検者にとっての将来を決める重い決断を、もし中学の一存でなされているのだとしたら、非常に怖い感覚であり、あってはならないことだと思います。

辞退と追加合格。中学の介入が許される範囲は

公立の辞退の是非についての個人的な考えとしては、もし既に第1志望の私立高校や国立に合格しているのであれば、後から行われる第2志望の公立を受検する必要はないのではないか、と思います。

特に北海道の公立高校入試は、若干名のプラスもない募集人員=合格者数がほとんどですし、少数の推薦受検者以外、受検機会は1回のみです。公立を第1志望としている受検生のことを考えると、第1志望合格後の一般入試の欠席を勧める指導は、私は理解できます。

しかし公立が第1志望の場合は別です。

道内の高専は、学力検査による選抜を

・専願
・道内の4つの高専複数校志望受検
・併願

のように、志願の種類を分けて募集しています。有利な条件で受検できる併願以外の制度を利用したなら、辞退できないと言うルールも理解できます。しかし、そうではなく併願であることを表明して受検する場合、第1志望を優先するのは受検生の数少ない権利のように思うのです。

実力勝負で受ける併願の受験は、基本的に受ける学校対受検生の問題であり、必要以上に中学が介入することに違和感を覚えるのは、私だけなんでしょうか?学芸大附属のように、追加合格は保護者に直接というところも多いと思うのですが、北海道では違います。

第1志望の追加合格の連絡を、中学が握りつぶすようなことがあれば、それが許されるとは思えません。そんな運用がされていないことを祈りたいです。