市立札幌旭丘と札幌大通の変更の影響は
2022(令和4)年度からの北海道高校入試の変更点として、定時制の自己推薦入学者選抜の導入が挙げられます。札幌市の公立高校で定時制で推薦を行うのは、札幌市立札幌大通高校です。
又、札幌市立札幌旭丘高校は2021年度までの普通科(募集人員320名)のみの高校でしたが、2022年度からは普通科(募集人員240名)と数理データサイエンス科(募集人員80名)の2つの学科を持つ高校と変わります。
この記事ではこの2つの高校の変更が、2022年度北海道高校入試に及ぼす影響を考えてみます。
【シリーズ】2022年度北海道高校入試はここに注意!
①学力検査の変更
②市立札幌旭丘と札幌大通の変更の影響は(この記事です)
③イレギュラーへの対応
市立札幌旭丘高校の数理データサイエンス科開設
2022年度から市立札幌旭丘高校では数理データサイエンス科が開設されます。理数系高校の倍率の高さはここ数年の北海道の課題でしたので、理数系の募集人員が増えるのは歓迎すべきだと思いますし、データサイエンス分野の学科の開設も、有意義な試みだと思います。
ただしその開設が人気の市立札幌旭丘高校で行われるは、受検生への影響を考えると、個人的には色々と思う所があります。
理由の一つは、普通科志望の受検生への影響の大きさです。
もともと非常に人気の高い普通科の高校であった旭丘の募集人員が2つの学科に分かれることで、昨年までの普通科の定員が320名から80名減って、240名になることです。
普通科志望の受検生にとっては厳しい受検を覚悟するか、志望校を他へ変更するかを迫られることになるでしょう。
普通科は他の高校も沢山あるからそちらへどうぞということなのかもしれませんが、旭丘高校の普通科を志望する今年の受検生はどう感じているんだろうか、厳しい決断を迫られているのではないかと想像します。
昨年(2021年)の市立札幌旭丘高校の推薦入試は、推薦標準枠64名のところ112名の出願者があり、48名の推薦不合格者がでました。
学校名 | 学科名 | 推薦標準枠 | 出願者数 | 内定者数 | 内定数と出願数の差 | 市立札幌旭丘 | 普通 | 64 | 112 | 64 | -48 |
---|
推薦不合格者は、推薦の出願と同じ高校にも、異なる高校にも再出願できます。再出願後の最終の出願状況はこのようになっています。
学校名 | 学科名 | 再出願後の全出願者数 | 推薦入学確約書提出数 A | 実募集人員=募集人員-A | 3/1発表の倍率 |
---|---|---|---|---|---|
市立札幌旭丘 | 普通 | 414 | 64 | 256 | 1.6 |
2021年の普通科の定員が320名。そこから推薦内定者数64名を引くと、一般入試の定員は256名程度となります。再出願後の全出願者数は414名でしたので、一般入試の倍率は、約1.6倍となりました。
2022年の普通科の募集人員は、240名。うち推薦標準枠は20%なので48名程度です。つまり一般入試で合格できる枠は192名程度。
昨年(2021年)の人気ぶりと定員320名の昨年でこの倍率ということを考えると、今年定員の減った普通科志望の受検がどうなるか、厳しい入試となることが容易に予想されます。
ただそれを踏まえて、特に推薦に関しては、出願の段階つまり中学が学校推薦者を選ぶ段階で厳しく人数を絞られていることも考えられます。
そういう理由で今年度の見かけの倍率に厳しさが表れるかどうか分かりませんが、市立札幌旭丘の普通科を志望していた受検生は、定員減の大きな影響を受けていることでしょう。
理数志望者を流出させたくない
理由の2つ目は、個人的に、公立の理数系の学科を小さな規模で分散させてぽつぽつと開設するのは、理数志望者にとってはデメリットの方が大きいのでは?と思うからです。
数理データサイエンス科の募集人員は80名。
札幌の高校から入れる公立の理数系学科は、札幌啓成の理数科(40名)、札幌国際情報の理数工学科(40名)などがありますが、工業高校以外は少人数の募集です。
北海道の公立高校の一般受験は基本的に第二志望はありませんが、複数学科を持つ高校だけ第二志望やその他の志望を出願し、スライド合格できる場合があります。
受検生の目線で見れば、複数学科を持つ高校だけ理数系とその他の学科を第二志望として出願できる現行の制度は、不公平感を感じてしまうのではないでしょうか。
又、理数系を選ぶ人はその分野を学びたいという強いモチベーションを持っているので、もしその学科が落ちても「じゃ、普通科で…」とはならないんじゃないかと思います。もし落ちたら他の理数系を学べる学校を選びたいと思うでしょうし、普通科から、第二志望として理数系学科へ流れてくるシステムにも納得がいかないのではないでしょうか。
現在の状況だと、結局理数系を学びたいという強いモチベーションを持った学生を、他の学科や私立などの他の学校へ流出させることになり、非常にもったいないことなのではないかと感じています。学びたい分野が明確な生徒は、その分野を学べる学校へ行けるシステムがあればなぁ…と思うわけです。
教員の配置や、設備の投資の面、札幌のコンパクトな地方都市というメリットを生かす意味でも、横浜市立横浜サイエンスフロンティア高等学校や東京都立科学技術高等学校、東京都立多摩科学技術高等学校のような理系オンリーの大きな高校を創って、理数を学びたい人は他学科に流出させない仕組みを作るのもいいのではないかと考えてしまうのですが…。
又は、学校を横断して理数関係の複数学科に志望を出せるような入試システムがあればなぁ…と思います。
同じ分野に興味がある生徒が集うことで生まれる相乗効果というのは確実にあります。学校全体の男女の比率や、総合大学的な他学科の生徒が集まる面白さを考慮して、小さな学科をポツポツと配置していることかと思いますが、インバウンドにも頼れなくなった北海道の現状を考えると、教育で思い切った方針を打ち出すのも面白いのではないかと妄想してしまいます。
市立札幌大通高校の自己推薦
2022年度からの北海道高校入試の変更として定時制の自己推薦入学者選抜の導入されます。
自己推薦というのは、学校推薦とは違って学校長の推薦は必要ありません。自分を自分で推薦する「自己推薦書」を提出することで推薦入試に出願できるという方法です。
札幌市の公立高校の定時制で倍率が高いのは市立札幌大通高校。募集人員は午前部30名程度、午後部30名程度、夜間部50名程度の計110名程度。試験内容は、「自己推薦書」の提出の他は作文となっています。
こちらは2021年の市立札幌大通高校の推薦入試内定者数です。
学校名 | 学科名 | 推薦標準枠 | 出願者数 | 内定者数 | 内定数と出願数の差 |
---|---|---|---|---|---|
市立札幌大通 | 普通(午前) | 30 | 106 | 30 | -76 |
普通(午後) | 30 | 82 | 30 | -52 |
市立札幌大通は、日中に通える部の人気が非常に高く、午前で76名、午後で52名の不合格者が出ました。
なお、夜間は推薦標準枠50に対して推薦出願者数は34人でしたが、内定者数は50人と増加しています。午前・午後から夜間へ、16名がスライド合格したようです。
ここ数年の市立札幌大通高校の午前、午後部の倍率はかなり高く、日中に通える市立札幌大通高校のような定時制へのニーズの高まりを表していました。
従来の学校推薦では、出願の段階で不公平が生じてしまいます。自己推薦では、自己推薦書と作文でしっかり入学したいという意思を伝えられることがポイントとなりますが、推薦に出願できないという不公平は回避できます。
今回、北海道では定時制の推薦のみに自己推薦入学者選抜を導入しましたが、北海道以外の地域ではもう随分前から推薦というのは自己推薦を指すというのがスタンダードになっています。
そこへ入学したいという強いモチベーションを持った生徒を公平に「高校が」選抜するためには、自己推薦の方に軍配が上がります。学校推薦は「中学が」それぞれの中学が「外から見えない」方針で生徒を選んでいるからです。
「高校が自校の特色を打ち出すには高校による選抜が必須」という考え方で、中学校による学校推薦がそのまま合否に結びつくような公立の高校入試を行なっている地域はどんどん減り、今では殆ど残っていないのではないでしょうか。
北海道では学校推薦が当たり前になっていますが、定時制以外の自己推薦導入についても今後の議論が必要だと言えるでしょう。
ただ今年の市立札幌大通の推薦倍率は昨年以上に高くなることも考えられます。市立札幌大通のような日中に自分のペースで通えるタイプの高校のニーズの高まりを鑑みて、同じような公立の高校を創設することの必要性を考えるべきではないでしょうか。
まとめ
現在の北海道のの公立高校入試制度は、内申ランクの縦割りはあるものの、高校の特色を打ち出しにくい状況を作っていると考えます。
又、複数の公立高校受検のチャンスを得ることができるのは、不透明な基準の学校推薦を得ることができた生徒か、ごく少数の複数学科を持つ高校の受験者のみ。こちらの記事
でも分かるように、近年2次募集を行う高校が増加しており、多くの高校受検生が、公立以外へ流出している様子も見られます。
より受検生のニーズに合った高校の配置や、何十年も硬直化した北海道の入試制度への活発な議論が必要な時期なのではないでしょうか。