2016年4月より北海道でも日本脳炎が定期接種化
北海道では日本脳炎のワクチンは、つい数年前まで定期接種ではありませんでした。
2015年度まで、日本脳炎を媒介するコガタアカイエカが生息していないとされていることなどを理由に、知事が北海道内全域を「日本脳炎の予防接種を行う必要がない区域」として指定していたからです。
それまで北海道で日本脳炎の定期接種が行われていなかったので、ある年齢以上の道産子で日本脳炎ワクチンを接種しているという人は、とても少数派だろうと推測されます。
定期接種を望む声があった
しかし、これだけ人の移動が頻繁に行われ、国内、海外を問わず移動が激しくなった時代に、北海道だけ感染の心配がないというのは時代にそぐわないのではないか、北海道の子どもが、修学旅行や就職で本州にへ行くことは一般的なことになっている、などの意見があり、議論がされてきました。
温暖化の影響で、今まで生息していないとされていた種類の蚊も移動してくるかもしれません。また、それまで定期接種として日本脳炎ワクチンを接種してきた子を持つ人が転勤等で北海道へやってきた時に、北海道だけ違うということでびっくりしてしまうという実情もありました。
定期接種ではないということは、他の都道府県では無料の日本脳炎ワクチンが有料となる、ということです。一期・二期と長い期間をかけて複数回打たなくてはならない日本脳炎の予防接種なのですが、途中で本州から北海道へ引越してきたために、宙ぶらりんの状態になってしまう子どもたちが一定数いることも事実だと思います。そういう子どもを持つ親たちが、今まで無料だった日本脳炎ワクチンを自費で打つという選択をせまられ、なぜ北海道だけ…と思うのも無理もないかなと想像できます。
そういう声の後押しがあり、いろいろ議論や意見がありつつも今年2016年4月1日から区域指定をやめ、北海道でも日本脳炎を定期接種として実施することとなりました。
定期接種の反対意見もある
北海道での発症例が殆どない
望む声があったのは事実だと思います。ただし、反対の声も根強くありました。
日本脳炎という病気は、北海道において40年以上発症例の報告がない病気です。そんなこの地域でかかる可能性が極めて低い病気に対して、年間11億円超ともいわれる交付税を使って定期接種とする必要があるのか、という意見がまずありました。
重篤な副反応ADEM(急性散在性脳脊髄炎)
そしてもうひとつ、この日本脳炎というワクチンは、過去の経過を見るといろいろ考えされられる出来事があり、道外のお母さんたちを翻弄してきた過去があります。当時内地に住んでいた私も正直翻弄され、他のお母さんと「日本脳炎どうする?」と何度も話題になった記憶があります。
2005年、マウス脳由来の以前のワクチンにより、重篤な副反応であるADEM(急性散在性脳脊髄炎)を引き起こす可能性があると判断され、日本脳炎ワクチンは本州でも勧奨を外れて、事実上の接種中止の状態となりました。
その後、安全とされる乾燥細胞培養ワクチンが承認され、2010年から積極的勧奨が再開されたのですが、その新型日本脳炎ワクチンになってからも、ワクチン接種後のお子さんの死亡例、ADEM(急性散在性脳脊髄炎)の報告例もありました。
このような経緯で積極的勧奨を外れた時期があるために、道外でもその時期には接種を見合わせた人たちが大勢いました。そのため北海道に限らず、1995年4月2日〜2007年4月1日生まれの人たちは、特例対象者として20歳未満まで無料で接種することができるようになっています。
病気のリスクとワクチンの副反応のリスク
ワクチンにはリスクと恩恵両面があるため、子供に接種を受けさせる保護者は、いろいろな資料や意見を自分の目で見て、その両面を天秤にかけ考えてる必要があります。経緯と副反応の資料についてはこちらの厚生労働省の資料が参考になると思います。
厚生労働省
「日本脳炎の予防接種に関する現状について」
「脳炎・脳症の例(19事例)の調査報告について」 (平成22年7月から平成24年5月までの脳炎・脳症の19事例の資料です。)
積極的勧奨の差し控えの時期は(平成17年5月~22年3月)なので、その後の副反応の事例は、勧奨再開の後の乾燥細胞培養ワクチンでの事例となります。
参照:厚生労働省ホームページ
第8回厚生科学審議会感染症分科会予防接種部会日本脳炎に関する小委員会及び平成24年度第6回薬事・食品衛生審議会医薬品等安全対策部会安全対策調査会 資料
ワクチンには、副反応というリスクがあります。それが分かってなおワクチンを打つことのメリットというのは何でしょうか? 病気のリスクの方が、ワクチンの副反応のリスクより高いと判断される場合、多少リスクをとってもワクチンを打つメリットはあると思います。
しかし北海道において過去40年発症例のない病気に対して、ワクチンの重篤な副反応例の数やリスクの方が大きいと思う人がいるのも理解できます。
もちろん、それは個々で判断されるべきものです。今後もこの地域で暮らす人と、西日本やアジアへ移動する予定の人とでは、リスクの大きさが変わってきます。各々の事情を鑑みて、ワクチンや副反応についてよく調べて、ひとりひとりが判断するしかありません。
日本脳炎ワクチンについて
日本脳炎ワクチンの標準的な接種の時期は
・1期接種:初回接種については3歳~4歳の期間に6~28日までの間隔をおいて2回、追加接種については2回目の接種を行ってから概ね1年を経過した時期に1回の接種を行います。
・2期接種:9歳~10歳までの期間に1回の接種を行います。
厚生労働省公式サイトより引用
となっています。対象年齢としては第1期接種が生後6ヶ月から90ヶ月。第2期接種は9歳から13歳未満です。
1期に3回、2期に1回と、長い時間をかけて計4回受けるのが基本的な日本脳炎のスケジュールです。しかし、2016年に日本脳炎が定期接種になったばかりの北海道では、この年齢を過ぎて未接種の人も沢山いるわけで、約10年もかけて接種しなくてはならないとすることは現実的ではありません。
そこで対象年齢通りでなくても、北海道基準の特例措置対象者で20歳未満の人なら接種を無料で受けられるようになっています。
例えば札幌市のサイトでは、平成19年4月1日以前に生まれた方で、20歳未満の方も特例措置対象者としていて、そのうち平成23年5月19日までに全く接種を受けていない場合、次のようなスケジュールでの接種を促しています。
平成23年5月19日までに全く接種を受けていない方
■対象年齢:20歳未満
■接種回数:計4回6日以上(標準的には6~28日)の間隔をあけて2回接種し、6か月以上(標準的にはおおむね1年)の間隔をおいて3回目を接種。3回目から6日以上の間隔をあけて4回目※を接種。
※3回目から6日の間隔を空ければ4回目の接種が可能ですが、通常おおむね5年~10年の間隔をおいて接種することが望ましいとされています。
引用:札幌市サイト:日本脳炎
ちなみに平成23年5月19日までに一部の接種を受けたことがある場合は、6日以上の間隔をおいて不足回数分を接種すればいいようです。接種の途中で道内に引っ越して中断していた我が家のようなケースも、このスケジュールで救済されます。
そのほかのケースについても市のサイトでは生年月日で区切って接種スケジュールが分かるように記載されています。
ワクチンについてはよく調べて納得し、個々の事情にあった判断をしたいですね。